しぞ~か防災かるた作成の経緯

みんなで創る+地域を愛する=地域の文化へ

 

  これからの防災は、全国で進められている「地域防災計画の策定」のように「地域に根差した防災」がキーワードとなっています。その中に、気楽に防災への知識を広められるものとして役立つ「防災かるた」の活動があります。これは「かるた」という楽しい遊びを通じて防災意識を高めるという素晴らしい活動です。 

 

 私たちしぞ~か防災かるた委員会は、一般的な「防災かるた」をさらに地域密着型(地域に根差した型)にするために「みんなで創る+地域を愛する」の2つの要素を入れた「みんなで創る地域密着型防災かるた」というものを目指したいと考えました。

 

 初めに、静岡県内各地で一般の方を集めたワークショップや学校等での防災講座などでかるたの句づくりや取り札の色塗りなど「みんなで創る」に挑戦し、そういった活動で出来上がったかるたで「小・中・高校かるた競技大会」や「一般向けかるた競技大会」等、かるたを活用する大会や講座を開催し、「防災意識向上」と「地域愛向上」を図り、ひいては地域の文化に育てたいと考えました。

 

 その大きな夢のために、まず試行錯誤しながら「みんなで創る+地域を愛する」をポイントにした静岡市版である「しぞ~か防災かるた 静岡市版」を作成しました。次に作ったかるたを使った「かるた大会」を静岡市内各地で実践したことにより、ある程度、「みんなで創る地域密着型防災かるた」作りと活用のノウハウが見えてきました。

 

 そんな会の活動が10年目を迎えた2022年には県全体に目を向けた「静岡県版」の完成に“挑戦”しました。エリアが広がることで作成も大会も実践は難しくなります。しかし、防災は地域ごとの取組だけでなく、町単位、市単位、県単位と広がる中で連携・協力するいろいろな取り組みや人との関係が非常に重要です。

 

 静岡市版の策定過程で見えてきたノウハウと「みんなで創る」を更に大きなものにするため、2022年11月に「READYFOR」のクラウドファンディングで皆様のご支援をお願いし、とても多くの方のご協力とご厚意を得て「しぞ~か防災かるた 静岡県版」が完成しました。

 

 

【委員会の紹介】

 

 「しぞ~か防災かるた委員会」の「しぞ~か」は静岡県中部地域の方言で「静岡」のこと。私達「しぞ~か防災かるた委員会」のメンバーは“静岡大好き”で集まった仲間です。年齢は10代~70代まで、学生、主婦、NPOメンバー、起業家、会社員、公務員、教員など等、所属・職種もいろいろです。委員会を立ち上げてから10年超。いつでも、わいわいがやがやと楽しく活動することを大切にしてきたからこそ、ここまで続いたと思っています。   

 

 

【この活動を始めたきっかけ】

 

 この活動を始めた大きなきっかけは2つあります。きっかけを話すために、まずは、これを書いている元代表の私の自己紹介をします。私は楽しい会議を普及する活動をしている団体「(一般社団法人)会議ファシリテーター普及協会」の副代表をしている小野寺郷子です。2007年(平成19年)頃から“楽しい社会を作るには楽しい会議から”をモットーに活動しています。

 

 活動を始めた頃からは、少子高齢化の波が全国に広がり平成の大合併が行われている最中でした。静岡県では2003年(平成15年)3月に74あった市町村が2010年(平成22年)3月には35市町になりました。「今まで違った市町の住民が新しい一つの市町になるためにお互いのことを知る必要がある、それなら楽しい会議で」と新静岡市は考えたのか、私が住んでいる静岡市葵区では区民懇話会という区民の話し合いの場が生まれ、その第3期の座長を私が仰せつかることになりました。  

 

 実はこれが一つ目のきっかけ、平成の大合併です。

 

 いろんな地域で楽しい会議の進行役を育てる活動をしていた私は群馬県藤岡市の青年会議所(JC)の皆さんへの研修で、群馬県のみなさんにとってかるたというと「上毛かるた」であることを知り、驚きました。なんと、「上毛かるた」は太平洋戦争の終戦後すぐの1947年(昭和22年)に発行された群馬を代表する「郷土かるた」だったのです。全44枚あり、群馬県の名所旧跡や輩出した人を札としています。 ちなみに『上毛』とは群馬県の古称。

 

 そして翌1948年(昭和23年)には第1回上毛かるた競技県大会が開催され、今日まで続き、群馬県民の多くは44枚の札、全てを暗記しているではありませんか。それはとっても羨ましい状況で、いつか、静岡にも同じような郷土かるたを作りたいという夢が生まれました。そこで、区民懇話会で郷土愛を楽しく育むツールとして「上毛かるた」のようなかるたを創ることを提案し、静岡市の良いところや特徴を集めるかるたづくりワークを自分の活動中で地道に実践し始めました。   

 

 そして、二つ目のきっかけが東日本大震災(2011年3月11日)です。

 

 静岡県は南海トラフ地震の発生による被災が危惧される県です。そのため防災の意識も高いと言われてきたものの、来る、来ると言われて一向にこない大地震に教訓や意識はマンネリ化してきていました。

 

 そこにこの大地震、この教訓は熱いうちに残さなければと考え、地道に集めてきた郷土かるた用の句を上の句に、防災心得・知識を下の句にする百人一首型かるたを作ろうと言うこととなって、郷土史や防災に関心の有る仲間と共に「しぞ~か防災かるた委員会」を2012年(平成24年)1月に立ち上げました。2023年(令和5年)、今年は立ち上げから11周年になりました。  

 

 

【しぞ~か防災かるたの3つの特徴】    

 

1 「防災意識向上」と「地域愛向上」の2つの視点

 

 一般的な「防災かるた」と違うところが、「防災の意識や知識の向上」だけではなく、地域で定着して末永く使ってもらえるようになるために「地域への理解、地域愛の向上」も目指している所です。そのために「上の句」に地域の良い所、「下の句」に防災の知識が書いてある形式になりました。

 

2 地域の人みんなで創る

 

 作成の過程から広く「地域の人」に参加してもらい地域のみんなで創っていくことを目指しました。そのために、例えば、学校に出向いて「上の句や下の句」の言葉を子どもたちと一緒に考えるワークショップ等を開催してきました。

 

3 積極的に「かるた大会」を開催する

 

 地域の人たちが子どもから大人までかるたの「上の句や下の句」を覚えていて言うことが出来るような「地域に根差したかるた」にするために、「かるた大会」を希望する所があればどこでも開催に協力して実施しています。

 競技大会としての面白さを味わってもらうために、静岡市版では学校や防災訓練などでの実施に力を入れて取り組んできました。県版では更に広げて地区大会、全県大会などを考えています。  

 

 

【これまでの活動】

 

1 静岡市版かるた本体の作成

 

(1)上の句と下の句の作成東日本大震災の教訓を忘れないようにと、月に多いときには3,4回の委員会で話し合ったり、いろいろな人たちに呼びかけ参加してもらってワークショップ形式で句を作ってきました。(今までに小学生~俳句の同好会まで300人以上の人) 

<参加者の感想>

・おもしろかった(多数)。

・楽しみながら防災について学ぶことができた(多数)。

・やりながら思いついて、話しながら新しいのを作って楽しかった。

・「地学」選択じゃなくてもわかるような単語を選択するのが難しかった。

・用語はたくさん出たが、いざ語呂をよく並べるとなるととても難しかった。

・下の句だけ作るのは難しかった。上の句との関連性がなかなか・・・。

・色々説明したいことがあって、七・七の内に収めるのは意外と大変だった。

・上手く作れている人がたくさんいて、発表を聞くのが面白かった。

・しぞ~か防災かるた(静岡市版)がうまくできていて驚いた。・知らなきゃいけないのに知らないことが多いと、すごく危険だと思った。・用語の違いがよくわかった(多数)。

・(調べて表現することで)知らず知らずのうちに、勉強させられていて悔しい。

・こういう方法の方が頭に入ってきやすい気がする

 

(2)取札の作成

 次に、メンバーのイラストレーターに子どもたちにわかりやすく理解できる楽しいイラストで取り札の下絵を描いてもらい、これをワークショップでいろいろな人に「色塗り」をしてもらって、静岡市版「しぞ~か防災かるた」は2012年(平成24年)の10月に原画が完成しました。

 

(3)解説書の作成

 最後に読み札の裏に付ける解説を作る作業です。

 この作業は、読み札の解説をツイッターなどに用いる読みやすい分量、144文字程度に抑えることが難しく、本体の作成並みに大変な作業になりました。

 委員のみんなで文章を書き、みんなで検討して、最後に防災と郷土史の専門家の先生に監修して頂き、それを見やすく読みやすい文字数に揃え、デザインにして、仕上げました。そして、それをそのまま「解説書」として別に印刷しました。

 しかし、本当は読み札の簡易版でない詳しい解説書を作ることが希望でしたが、静岡市版では時間の関係もあり、それ作ることはできませんでした。静岡県版では静岡市版の含めた読み札の裏解説を補う本格的な解説書の作成を計画しています。

 

 

(4)本体の仕上げ

 最後にその原画をコピー機でプリントして、みんなで切り取り、厚紙に貼り付けて手作りの「しぞ~か防災かるた」ができました。

 その完成したもので「第1回かるた大会」を上毛かるたの競技会のやり方を参考に実施しました。その後印刷して製品化し静岡市内で市版かるたを販売しつつ活用して、実際の講座や大会などを年10回程度、実施してきています。

 

(5)県版づくりへ着手から44句が完成 

 静岡市版が完成した2013年ぐらいから市版かるたの活用と共に静岡県版を作成することを進めてきました。現在、10年近くかけて44句にまとめるところまで到着しました。

 

2.「しぞ~か防災かるた大会」 ~楽しくなければ広まらない~

 

 「地域に根差したかるた」になるために、「かるた大会の開催」は必須です。そして、ただ開催するだけでなく「楽しく開催する」「楽しいかるた大会」になることを最大限に意識して開催しました。「楽しくなければ広まらない」という考えで開始したことで、委員のメンバーもかるた大会を楽しみながら運営することができました。

 

 

【今後の展望】

 

 しぞ~か防災かるた委員会の継続としぞ~か防災かるたの定期的な修正・改善作業、そして「しぞ~か防災かるた大会の開催」を継続することにより、群馬県民すべてがかるたを知っている「上毛かるた」のような「静岡県民の郷土・防災かるた」を目指したいと思います。

 

 そして、この取組によりできた実践のノウハウを整理し、県民の皆さんで「防災意識の向上」と「地域愛の向上」を目指す「新しい型の防災かるたの作り方」で、どの市町村や県でも作れるようになればと考えています。また、静岡県内をはじめ、全国的にも「しぞ~か防災かるた」形式のかるたが普及され、「防災かるた」交流会なども開催できるとそれぞれの地域の良さとその地域独特の防災対策も学ぶことができるのではないかと考えております。